大手電力と新電力についてのメモ
◆全国の小売電気事業者は、計713社(2021/3/22現在)。大手電力(元地域独占体制の10電力会社)[=旧一般電気事業者(旧一電・いちでん)]は、全発電設備の80%を独占。大手電力以外の新電力は、703社。販売電力量に占める新電力のシェアは約20%になったが、自前の発電設備をもたない会社も多くある。
◆2020年12月末~2021年1月末に、卸電力取引所(JEPX)のスポット市場(一日前市場)の電力価格が暴騰し、その影響を受けて新電力各社は、苦境に陥っている。
◆3/24に倒産した新電力大手F-Power(エフパワー)の経営の中心は、日本興業銀行(現みずほ銀行)の出身で、幹部陣も含めて金融出身者を多数抱えていた。大手電力のように発電所を持たなくても、電力市場を駆使することで新電力は成長できるはずという考えの下、事業を拡大させてきた。しかし、市場で仕入れた250円/kWhの電力を、顧客に30円/kWhで販売していたら、赤字にならないはずがない。
(市場連動型の料金体系をとっていた新電力はこの点では赤字にならないが、顧客の電気料金が8倍になるので、顧客離れは必須。)
◆その上、卸電力取引所(JEPX)では売り札が切れてしまい(売り手がいなくなり)、買いたくても買えない状況に陥った。供給量確保の約束を果たせなくなった新電力は、ペナルティー(インバランス料金)まで徴収されることになり、今や、新電力各社は深刻な二重苦に陥っている。
◆新電力はどのようにして電気を調達しているか
[1] 卸電力取引所からの調達が40%弱
発電所を持つ企業(おもに大手電力)が売り手となって市場に電気を売り出し、新電力や大手電力などが買い手となって取引が成立。1日を30分単位に区切った枠で価格が決まり、例えば16:00~16:30を1kWhあたり10円といった形で取引が行われる。卸電力取引所で売りに出た電力の87%は、大手電力からのもの。
2020年6月時点(2020/4~6)では、わが国の販売電力量(1825億kWh)に占める卸電力取引所のシェアは、約38%(約定量683億kWh、約定価格4.8円/kWh)であり、新電力のシェアも17%(特高、高圧)、19%(低圧)となっている。
卸電力取引所(JEPX)では、大手電力に課された事実上のルール(形式的には自主的な取り組み)として、大手電力各社の販売電力量の約20%~30%程度が限界費用ベースで玉出しされている(グロス・ビディングという→注参照)。しかし、これはあくまで自主的な電源供出。このような取り組みにより卸電力取引所での取引量は徐々に増加しているが、今後は大手電力の玉出し義務化などの措置により、市場規模を拡大し、経済性の向上を図ることが必要とされる。
【注】グロス・ビディングとは、従来、余剰電力を中心に行われていた取引所取引(ネット・ビディング)に加え、大手電力の自社供給分を含めて取引所を介して売買する取り組み。大手電力の社内取引の一部が市場経由で行われるため、社内取引価格が明確となり、社内取引が透明化されることが期待される。しかし、実質的な競争促進効果をもたらすためには、相当程度の量が必要ではないか。また、電力会社が全部買い取ったのでは効果も限定的。価格の透明化だけではなく、競争促進的にするには、発電・小売間の情報遮断を行う必要があるのではないか。しかし、グロス・ビディングを導入する場合、発電・小売が一体化された会社では情報遮断を行うことが難しいという指摘もある。(電力・ガス取引監視等委員会)
なお、関西電力は、12月後半~1月前半、自社発電分を全量、自社小売に回し、卸電力取引所(JEPX)への供給をゼロにした。スポット市場で大手電力に課された事実上のルールであるグロス・ビディングを無視したといわざるを得ない!
なお、関西電力は、12月後半~1月前半、自社発電分を全量、自社小売に回し、卸電力取引所(JEPX)への供給をゼロにした。スポット市場で大手電力に課された事実上のルールであるグロス・ビディングを無視したといわざるを得ない!
[2] 常時バックアップによる調達が15%ほど
常時バックアップは、大手電力から供給される。新電力の需要の一定量を、大手電力から調達できる仕組み。新電力の常時バックアップ購入可能枠は特高・高圧で30%、低圧で10%(いずれも新規需要kWに対する比率)までとなっているが、今後は廃止の方向になっている。
[3] 自社が保有する発電所
発電所を保有する新電力は、よほどの大手のみ。多くの新電力は、自前の発電所を持っていない。東京ガスは東京湾周辺にLNG火力発電所を多数保有しており、供給する電力の80%程度をまかなっている。ガス会社はガスを燃料とする発電所、ENEOSのような石油会社は石油を燃料とする火力発電所を保有している。
[4] 相対取引
発電所を持つ会社との直接契約。各社の取引条件や交渉により、価格等が異なる。日本の発電所の80%を大手電力が保有しているため、新電力が相対契約を増やすには大手電力との契約交渉が欠かせない。大手電力からの相対取引として、年間で347億kWh程度(常時バックアップの15倍規模)が取引されていると推測されている。しかし、多くの新電力は、「条件の悪化や取引停止になることが怖くて、意見を言うことはできない」という弱い立場にあるのが実情。
[5] バランシンググループ
複数の新電力会社がまとまって、グループで電気の調達を行う。バランシンググループ自体は、卸電力取引所や、発電所を持つ企業との相対契約などで電気を調達。
[6] インバランス
最終的な調整電力の調達方法。見込み違いを補正するという性格があり、コストが高い。新電力は自社顧客の「需要」と、「供給」(調達する量)を合わせる義務を負っている。その義務を果たせなかったときには、送配電事業者(関西電力送配電株式会社など)が代わって最終的に需要と供給を一致させる(送配電事業者はそのための専用電源を常時、確保している)が、それをインバランスという。インバランスが発生すると、後で料金を精算する必要がある。その際の価格は卸電力取引所の取引価格に連動して変動する。見込み違いというペナルティ的な要素があるので、市場価格よりも割高。逆に需要よりも多く調達した場合は、割安な価格で買い取りが行われる。需要を正しく予測できない新電力はインバランスを多く発生することになり、経営を圧迫することになる。
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