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2009年1月29日 (木)

【まとめ】出版労連・09春闘方針案について

(以下は,ユニオンSNS「なかまネット」に載せたものをまとめて,そのまま再録したものです)

●[1] 感想(1)---貧困

 24日の関西春闘討論集会のときに,出版労連の「09春闘方針案」が配布されました。そこで僕の感想を。

 最初は,「貧困」についての捉え方。

 現在の日本社会と労働者の状況を見るときのキーワードは,貧困だと思いますが,「09春闘方針案」で,貧困についてまともに捉えて記述しているのは,3行だけです。肝心の第1ページの「政治・経済・社会の状況」の中には,この言葉は見られません。

 貧困という文字は,
「7ページ,最低賃金のところ」
「11ページ,消費税のところ」
「12ページ,新自由主義のところ,財界の経労委報告のところ」,
とあわせて4回出てきますが,「7ページ,最低賃金のところ」を除く3回は,いずれも出版産業や出版労連組織内の状況とは関係なく記述されています。

 そして,7ページの記述だけが,「最低賃金を反貧困,格差是正の視点からも,産業内の交渉や社会的な運動に力を発揮しましょう」と,妥当な内容になっています。まともなのは,この3行だけです。

 つまり,貧困,貧困化,格差の拡大という問題が,自分たちの産業の問題ではなくて,人ごとみたいなんですね。出版労連の組合員には,貧困がないという認識が前提になっていて,そこから出版産業には,たいした貧困がないという情勢認識になっているのではないかと,疑われます。(それは,出版労連が版元の正規労働者を中心としていることに由来していると思われます。)

 出版産業のどこに,貧困があるのか,丁寧に見れば,産業内の交渉だけでは解決が難しい問題であり,広い社会的な運動が求められていることが分かるはずです。方針案10ページの「社会的課題」の中に,記載がないのは,どうしたことでしょう。

 出版産業のどこに,貧困,貧困化,格差の拡大があるのか,きちんと見ていきたいものです。

 出版産業のどこに,貧困,貧困化,格差の拡大があるのか。
***
・中小零細版元の労働者。
  経営不振から賃上げゼロ,一時金ゼロが続く例も珍しくない。
  企業間の格差も大きくなっている。
・編集プロダクションの編集者。
  仕事もひじょうに過酷だ。
・至る所にふえた派遣社員。
  継続していても派遣のまま。細切れ派遣。派遣切りなど。
・取次や書店の労働者。
  正規でも,低賃金で流動性が高い。非正規はましてや。
・フリーのライターや校正者。
  ほとんどは,不安定で低賃金だ。トラブルもある。
・増えている倒産,解雇
  争議になるかならないかは別にして,確実に多くの貧困を生んでいる。
・若年層は一般的に貧しくなっている。
  賃金もぐり込みで,先輩より低賃金化がすすみ,格差が拡大。
  定昇とりやめ,査定導入などで,将来展望まで抑制されている。  
・継続雇用の制度や条件も見るべきだ。
  賃金が「最賃+α」レベルで良いのか。
  雇用されるだけましと言っていいのか。
  不法な継続雇用拒否もある
  (産業内の貧困にならなくても,発生は出版産業内)。
***

 こういった中に,出版産業における貧困,貧困化,格差の拡大が存在していると思います。ユニオンやネッツ組合員を多くふくむ,こうした出版産業全体の実情を見るならば,「貧困」という言葉が春闘方針案の第1ページ「政治・経済・社会の状況」の中に出てくるはずですし,出版産業内のワーキングプア,貧困に関する課題と方針がもっと議論されるような提起になっているのではないかとと思いました。

●●[2] 感想(2)---すべての労働者

 方針案の第1ページに,春闘スローガンがあり,「すべての労働者(正規,非正規)」と強調されています。それは,良いのですが,スローガンだけではなく,中味が問題です。本当に,「すべての労働者」が視野に入っているでしょうか。

 09春闘方針案 「Ⅲ 春闘の重点要求」(5ページ)を読んでいると明白なように,この方針案は,職場で経営者に要求を出す企業別組合の春闘しか対象にしていません。「すべての労働者」というならば,もっと個人加盟ユニオンとのバランスをとらないといけないと思います。

 出版情報関連ユニオンでは,職場で春闘要求を出さない,出せない組合員が大多数です。また,たとえ要求を出しても,実質的に交渉が機能せず,職場での問題解決が閉ざされている職場もあります。ネッツでは,そもそも要求を出す経営者がいません。こういう組合員にとって,春闘とは何か,それを提示しなければならないはずです。

 09春闘方針案では,職場で経営者に要求を出す形の,企業別組合の方針しか示されていません。こう言うと,「それはユニオンなり,ネッツの課題だ」という反応が予測されますが,それはユニオンやネッツだけの課題ではなくて,職場で春闘要求を出さない,出せない多くの非組織出版労働者と共通する課題であるという,認識が必要だと思います。産別組合は,産業内の「すべての労働者」を視野に入れた方針を出すことが求められているわけで,企業別組合の方針を示すだけでは不十分です。

 また,数はふえていてもプロパー組合員だけで組織を運営するところに至っていない版情報関連ユニオンに対して,労連中執委はもっと責任を果たすべきです。それは,出版情報関連ユニオンに対して責任を果たすだけでなく,出版産業内の「すべての労働者」に対して責任を果たすことになるのですから。

 職場で経営者に要求を出すのが春闘という従来イメージだけにとどまっていると,労連内のユニオンやネッツに関する方針を提示できないばかりでなく,労働組合のない多くの職場で苦しんでいる出版労働者に,メッセージを発することができないことになるのです。ユニオンやネッツの多くの組合員から見て,当然,よそよそしい春闘方針となってしまうわけで,これでは,「すべての労働者」を視野に入れた運動はできません。

 職場で春闘要求を出さない,出せない多くの労働者に対して,また,たとえ春闘要求を出したとしても,労使交渉が機能していない労働組合(員)に対して,産別組合の出版労連が発すべきメッセージとは,どんなものでしょうか。

 それは,
***
 経営者に要求を出して頑張っても,問題が何も解決しないことはよくあることだし,職場で経営者に要求を出して交渉することだけが春闘ではないよ,と。
経営者に要求を出さない,出せない組合員,
職場での労使交渉が意味を持たなくなっている組合員は,
職場での力量に応じて,いろいろな課題【注】があるはずだし,
そういうことも難しい状況でも,一人一人でできる社会的課題をになっていく,
それが,ユニオンやネッツと,非組織労働者すべてに共通する“春闘”なんだよ。
***
 こういうような提起が,多くの労働者国民と連帯していく一歩だと思います。
***
【注】いろいろな課題とは
これからの職場闘争…職場での課題についての考え方。

・賃金,労働条件,環境改善への偏重,モノ取り(共益的志向)に陥らない,公益的志向をもった春闘へ。
・企業別組合でも,個人加盟ユニオンでも共通する「職場での課題」がある。
・出版情報関連ユニオンでも状況に応じて,職場の課題(≒春闘)として取り組むべき課題である。
・具体的には,
 1)労働者の命と健康
  人間らしい生活と労働の基礎は,命と健康。
  パワハラ,セクハラ,メンタル障害の課題などへの取り組み。
 2)雇用の維持
  解雇,契約破棄,契約打切りなどとの闘い。
  安定して,将来を見通すことができる雇用,正社員化は生活の基盤。
  人員増,ワークシェアリングの検討などで,雇用の維持,拡大をはかる。
 3)法律を守る責任
  コンプライアンス。とくに労働法。
  会社の労務担当責任者でも,労働基準法を知らない。
  労働組合が教える立場に立つ。
  労働者(組合)自身が,法律を尊重し守っていく。
 4)社会的道義的な責任
  外には出せない“もろもろ後ろ暗いこと”は,職場内で解決していく。
  道義的責任は,企業の存続のためにも必要。
  吉兆(船場)の偽装は法に違反したが,
  民事再生の見込みがあった。
  しかし,その後,法律違反ではない「使い回し」が発覚したことで,
  廃業に追い込まれた。
  企業の存続が危うくなるような内部告発に至る前の段階で,
  労働組合が責任をもつ。
 5)出版物に関する責任
  産業別労働組合として教科書問題に取り組むことは,最大の課題。
  各職場ごとでも,出版物の内容,作り方,働かせ方などで
  社会的責任の追及が求められる。
***

●●●[3] 感想(3)---社会的課題

 議案書10ページの「Ⅳ 社会的課題」が,1)労働法制,2)平和と憲法,くらしを守ろう,だけになっています。

 これだけ?と思いませんか。現在の社会情勢に応じた,もっと基本的な社会的課題を掲げられないでしょうか。たとえば,

(1) 格差と貧困の解決のために,
  社会に対して,雇用の拡大をめざす方向を明確にアピールすること。
  労働組合の社会的責任を果たしていく立場を示すことです。

(2) 出版産業の中の貧困,貧困化,格差の拡大を可視化し,
  出版産業内に対して,問題点をアピールしていくこと。
  出版産業再生のとりくみの一つでもあると思います。

 また,議案書に即して言えば,社会的課題として重要な,産業別最賃や全国一律最賃が,その前の7ページで職場交渉の項に入っているのは,基本的におかしな構成だと思います。課題の位置づけが整理されていない結果だと思います。この点は,24日の関西春闘討論集会の時にも,すでに指摘しているとおりです。

 「Ⅳ 社会的課題」は,全体にスペースの関係ではしょっているような感じですが,11ページの右段あたりは,よい提起だと思いました。

●●●●[4] 「賃金・一時金要求」に関する疑問点

議案書5ページ「賃金・一時金要求」の項目に関して

(1) 5ページ右段①で,賃上げの要求方式を「年齢間賃金カーブ維持分(定昇)+一律ベア」としていることから,典型的な年齢給体系が前提となっています。

 こうした年齢給体系を目標とすることが(可能かどうかは別にしても),加盟単組に求められていると判断してよいのでしょうか?
あるいは,単に,そういう賃金体系の組合の数が多いことから,第一に例示したのでしょうか。

(2) 5ページ右段④で,非正規労働者の「初任給,月額20万円以上」としていますが,非正規の場合,初任給という考え方は,なじまないのではないでしょうか? 

 初任給とは,1.新卒採用,2.期間の定めのない雇用,3.年齢によって年々賃金が上がっていく,という年齢給の場合に,最初のスタートの賃金をいうと思われます。

(3) 非正規の派遣,パート,アルバイトなどの賃金は,現在は実際として年齢にはあまり関係がなくて,1.仕事の種類,2.地域別最賃の金額,3.若干の経験,によって決まっているのではないでしょうか。

 出版労連としては,非正規にも年齢給をあてはめていくことを,,(今すぐではなくて,将来的にしろ)考えているのでしょうか。

(4) 均等待遇とは,その企業内の非正規労働者の賃金を,(今すぐではなくて,将来的にしろ)同じ企業内の同年齢の正規労働者の賃金にそろえていくことをイメージしているのでしょうか。

(5) 非正規と断りのある賃金要求についてまとめると,「1.初任給は20万円。2.時間給1300円以上,日額1万円以上,月額20万円以上。3.時間給のアップは50円以上」ということになると思われますが,

1300円以上の時間給の要求と,時間給の50円以上アップの要求とは矛盾しそうですが,どういう関係になるのでしょうか。

また,議案書には「誰でも…」「誰もが…」という記述もありますが,そうしたところには,非正規は含まれないと読んだらよいのでしょうね。「非正規を除く誰でも…」「非正規を除く誰もが…」というのが,正確な読み方なんでしょうが,表現として矛盾していると思います。

●●●●●[5] 根本的な疑問

■出版労連09春闘方針案に流れるトーン

さあ,“春闘”だ。“会社に対して”“要求を出そう”。
今年は“非正規を含む”すべての労働者のことを考えて闘おう!

■根本的な疑問

一定は機能する企業別組合がある職場内の闘いだけしか,視野に入っていないのではないか。

■4つの問題点

(1)“春闘”,(2) “会社に対して”,(3) “要求を出そう”,(4) “非正規を含む”。以下,この4点それぞれについて,[問題点],[反応],[問題提起]となっています。

■(1)“春闘”

[問題点]
労働組合のない職場で働く大多数の労働者(労働組合の組織率は20%を下回っている),そこには非正規が多くふくまれるだろう,そういった労働者に,春闘といって,何が届くのか,検討しないといけない。

[反応]
“春闘”だって? それ何?自分たちのためだけでは?

[問題提起]
→雇用,貧困,格差の拡大などの社会的課題に対する明確なアピールが求められている。正規雇用の確保のために派遣切りを主張する労働組合もあって,労働組合は既得権擁護団体ではないかと疑われている。正規労働者中心の労働組合がとりくんでいる春闘が,社会から信頼されているのか。組合員の利益(共益性)をこえた公益的=社会的な役割をアピールしていくときが来ている。

■(2)“会社に対して”

[問題点]
職場に労働組合があっても,経営困難とか,少数派などの理由で,要求を実現したり,会社を抑制できるだけの力量のない職場の組合員に,何が響くのか。

[反応]
“会社に対して”だって? とうてい無理,無駄!

[問題提起]
→経営困難でなくても多くの中小零細の場合,春闘要求とか,非正規云々というテーマでは,現実の問題解決とかけ離れている。こういう場合は,「交渉が難航したら本部が速やかに対処」(議案書5ページ右段)ということにはならないだろう。

→要求を出しても実現できない,少数派の職場組合(旧文英堂労組など)に対する従来からの本部指導は,職場内の組織化,力関係の転換をめざせ,であった(最近は,ユニオン化も提起されているが)。

→長く少数派にとどまっている労働組合は,結果として,組合員を増やせない責任,少数派である責任を自ら負わされてきた。自己責任だから,それ以上は面倒見切れないよ,自力でやるべきだ,というわけで,争議が終わると,あとは組合の葬儀をまつだけにさせられてきた(ちょっと大げさか。旧文英堂労組,旧中央図書労組,旧学生社労組などを念頭に)。

→しかし,職場内で多数派をめざしても,現実的に無理という状況は普遍的に存在している。社会的な力関係の反映に過ぎないことが多い。その職場の労働組合だけの責任ではないと断言できる。少数派にとどめられ,その責任を引き受けて悩んでいる,まじめな労働組合は,今でも実際に存在している。その「心の傷」を解放して,新たな運動に転換していくことは,出版労連という組織の活性化のために重要だと思う。

→職場内の闘いだけが春闘であるとしたら,少数派であることなどから困難に直面している単組は,展望を持てない。そういう意味で,ユニオン移行は,当該の議論と決意がともなって実現していくならば,ひじょうによい方針だと思う。

■(3)“要求を出そう”

[問題点]
職場に労働組合がなくて,ごく少数の組合員がいるだけという状況において(ユニオンの一人職場の組合員など),何ができるのか。

[反応]
“要求を出す”だって? 現実として考えられない!

[問題提起]
→ユニオンでは,要求を出さない,出せないという例は多い。将来を見据えて,職場内多数派をめざせ,という目標設定をしていけば,将来は可能になる場合もあるかもしれない。しかし,無理な場合もある。

→将来のことではなくて,この春闘の闘いとは何か,そこが問題。「会社に要求を出す」ことだけが,“春闘”なのか。

→こういう提起に対して,これまでは「それはユニオンの課題。まず,ユニオンでどうするのか,議論して」と言われてきた。しかし,そうではないだろう。ユニオンだけの課題ではなくて,圧倒的多数の非組織労働者に共通する闘い方として,重要なテーマのはずだ。ユニオンに加盟する労働者は,氷山の一角であって,氷山全体をどうするか,その方針が求められているはずだ。

→ユニオンの中で議論が進まないのも,事実だ。争議,労働相談に追われている。組合員が多くの職場に散在している。経験のある組合員が少ない。こうした状況で,ユニオンの責任にするのは,酷だ。

→SUN基金はよい。その上に,まだまだ出版労連,中執委として,力を入れるべきところはどこか,考えないといけない。産業別労働組合の責任だと思う。「本部が速やかに対処」(議案書5ページ右段)して欲しいのは,個別企業内の賃金交渉ではなくて,このあたり以外には考えられない。

■(4)“非正規を含む”

[問題点]
労働組合のない職場の方が多いのに,労働組合のある職場にいる非正規だけを対象に考えているのではないか。また,労働組合がある職場にいる非正規の場合でも,彼らに対して安心でき信頼できるというメッセージとなっているのか。

[反応]
“非正規を含む”だって? うかつにはのれない!

[問題提起]
→自分の職場内の非正規労働者のために運動や要求をしよう,というのでは,大多数の労働者,非正規労働者は,範囲外におかれてしまう。その職場の外の非正規は,どうなるのか。賃金格差が企業別に拡大していく結果になることを認めるのか。それでも,自分の職場の非正規だけでも改善されればよいのか。その次に,どうするのか。

→非正規労働者が組合員でないとき,組合がその要求を取り上げると,該当する非正規労働者の雇用まで危うくなる危険性がある。雇用こそがいちばん大切,失業につながるような可能性のあることは,絶対できない。不安定ながら雇用が確保されている間は,会社に要求するようなことはできないし,労働組合へも加入できない。現在,非正規労働者が組合に加入する状況は,失うものがすべて無くなってから,命すら危機に直面してから,という場合が典型的。

→「組合員でないと要求できないが,組合には入ることができない」という,このジレンマをどうするのか,このあたりの議論をしないで,そう簡単に“非正規を含む”と言っても,問題解決の方向は見えてこないのではないでしょうか。

→“非正規を含む”要求と運動をつくっていくことは,とても重要であることに異議はありませんが,今のところ言葉だけになっていて(言葉だけでもないよりましだが),議論が不足しているのではないか。まだまだ信頼されるに足る方針になっていないと思います。

●●●●●●[6] ユニオンのミニマム,スタンダード

 労連の春闘方針に関連して,出版情報関連ユニオンのミニマム,スタンダードの賃金体系の見直しについて,少し考えてみました。少し長めなので,最初に目次を入れて見通しを良くしました。
------------------------------------
目 次
[1] 賃金体系の原則の確認
 (1) 労働者(組合)にとって望ましい賃金体系
 (2) 経営にとって望ましい賃金体系
[2] 賃金体系,大まかな歴史的流れ
 (1) 企業別年齢給
 (2) 年齢給への揺さぶりや攻撃
 (3) 現在の大まかな状況
 (4) 1つの企業で100人の組合員がいる企業別労働組合の場合
[3] 出版情報関連ユニオンにおける検討
 (1) 100の企業に100人の組合員がいるユニオンの団交
 (2) ユニオンのめざすべき賃金体系
 (3) より団結しやすい賃金体系をめざすために,確認したいこと
 (4) ユニオンのミニマム,スタンダードの賃金体系の見直しのために
------------------------------------

[1] 賃金体系の原則の確認

(1) 労働者(組合)にとって望ましい賃金体系

 ・労働者が将来の生活設計をたてやすいこと。
 ・団結しやすいこと。格差が小さいこと。少なきを憂えず等しからざるを憂う。
 ・格差があっても皆が納得できる客観的な基準が存在していること。年齢,仕事。

(2) 経営にとって望ましい賃金体系

 ・経営側が自由に決められること。
 ・経営者の独自の基準を最優先できること。
 ・経営が判定する能力,成果を基準にしたもの。

[2] 賃金体系,大まかな歴史的流れ

(1) 企業別年齢給

・大企業,労働組合の強い産業では企業別年齢給が支配的であった。
・家計をになう男性労働者,女性は専業主婦か家計補助のパート労働者が一般的。
 …賃金の社会的な水準は存在しない。
  あくまで企業別。男性中心で女性差別をふくみやすい。
  ライフスタイルに応じた会社保障を要求,獲得(家族手当,住宅手当など)してきた。
  男性中心の企業別労働組合の組織に合致する体系。
  賃金が集団的に決定されてきた。

・その後,年齢給への揺さぶりや攻撃が続いている。

(2) 年齢給への揺さぶりや攻撃

 ①定昇の縮小,廃止など。
 …潜り込みで若年層の賃金低下,将来見通しの不透明化。
  その企業内では,中高年層の方が相対的に賃金が高くなっている。

  →年齢間の格差の拡大。若年層の不満が拡大。
  →能力や成果に応じた賃金のほうが合理的という宣伝は
   若年層に強くうけるし,広く浸透しやすい。
  →情勢判断?年齢給で団結できているのか。
   運動方向?これからも年齢給で団結できるか。

 ②年齢給の要素を排除しつつ,
  決め方も,企業別=集団的でなく,個別的に決める仕組みへ。
   ・職能給の導入(年齢給要素をふくむ場合が多い)
   ↓年齢給要素をより少なくする方向へ。より個別的に。
  ・成果給や年俸制(年齢要素の消滅)

(3) 現在の大まかな状況

 以上のような状況の中で,
・中小零細企業,労働組合の影響力の小さい産業では,
 大企業,労働組合の強い産業との間で,格差が拡大して,
 広い団結が困難になっている。
・年齢給の要素があっても,女性は除外されることが普通であった。
・政府の新自由主義政策(労働規制の緩和,企業の経営論理),
 労組の規制がないままに「最賃+α」を基準とした低賃金が広まった。
 生活保護基準を下回る→貧困。

・いちおう最賃と仕事を基準とした社会的な水準(かなり低水準)がある
  →タクシー,飲食店の店長など,正規でも低賃金
  →スーパーのパート,飲食店の接客など,非正規で低賃金。
  →非正規が三分の一になっている状況,
  ここには,年齢を基準とした賃金はない。

(4)1つの企業で100人の組合員がいる企業別労働組合の場合

・賃金が企業別に決まる(団交で集団的に決まる)のが当然,ということが前提にあれば,年齢給がもっとも望ましい,と言うことができる。
・そして,確かに,企業内の労働力の移動が容易である。
 職務給では,職務が変わると,賃金が下がるかもしれない,
 それでよいのか,という批判がある。
・年齢給の方が,団結しやすい。それも確かだ。

・しかし,以上の各点は,
 ①賃金が企業内の団交で集団的に決まるという前提があって始めて,妥当。
 ②現在は,賃金が,企業別に決まるのではなくて,
  個人別に決まるような方向へ進んでいる。
  企業別組合として,抵抗できれば,それでよいのだが。
 ③年齢給の妥当性は,歴史的に限られた条件(男性労働者が稼ぐ,終身雇用など)の下でしか,成り立たない。
 ④文英堂労組,中央図書労組は,
  職能給,査定の導入をとどめることができなかった。

  賃金が団交で集団的に決まるのでなく,
  個別的に団交と無関係に決まるようになったということは,
  企業別組合としての存立理由の喪失であった。
  それは,少数の特殊事例ではなくて,
  労働組合の存在していない多くの職場と共通の姿である。

[3] 出版情報関連ユニオンにおける検討

(1) 100の企業に100人の組合員がいるユニオンの団交

・組合員100人,100の企業に1人ずつの組合員がいるユニオンで,かりに五分の一の20人が春闘要求を出すとすると,20の企業で別々の団交を行うことになり,春闘期間30日=6週間で,各企業で各3回の団交を行うとすると,
 →春闘期間中ずっと,毎日2つの団交を行うことになる。
 →30日=6週間,連日2つの団交ができるのか。
   どうやったら,できるようになるのか。
 一般的な賃金,労働条件は,社会的に決める方向へ…必須。

(2) ユニオンのめざすべき賃金体系

 ①一つは,産業別の年齢給へ,という考え方。

  ・100の企業に100の年齢給体系→バラバラ,格差大,団結しにくい。
  ・企業別の年齢給ではなくて,産業別で共通する年齢給
   (出版産業の産業別年齢給)へ。
  ・しかし,仕事の種類や経験を問わず,年齢だけの基準に合理性があるか,
   という点から,同一年齢同一賃金ではなくて,
   同一労働同一賃金のほうが妥当性が高いと思われる。

②もう一つは,年齢を基準とした賃金ではなくて,
  仕事を基準とした賃金へ,という考え方。

  ・年齢を問わない。仕事の種類や経験を反映して合理性が高い。
   …対経営上でも説得力がある。
  ・正規,非正規のさまざまな雇用形態にあてはめることができる。
  ・出版編集,出版営業の職務などで異なるが,
   職務が同じなら,どの企業の人でも同じ賃金。
  (職務給の中に,経験や技能などを反映したランク別が考えられる。)

  ・同じ企業でも職務が違うと賃金が異なることになるが,
   (その賃金の差は力関係による)
  ・多くの企業の労働者が,横に団結しやすい。
   ユニオンの組織形態にマッチする。ここは重要だと考えられる。

(3) より団結しやすい賃金体系をめざすために,確認したいこと

 ・現在は…会社が違えば,賃金も違う。(=企業別賃金から)
  →今後の方向…会社が違っても,職種が同じなら賃金が同じ。
  (=職務別賃金へ)
 ・現在は…会社が同じで年齢が同じなら,賃金も同じであったのに,
  (=企業別・年齢別賃金から)
  そういうことは言えなくなりつつある。(=企業別・個人別賃金へ)
  →今後の方向…会社が同じで職務が同じなら,賃金も同じ。
  (=職務別賃金へ)

(4) ユニオンのミニマム,スタンダードの賃金体系の見直しのために

・100の職場に100人の組合員がいるという,個人加盟ユニオンでは,
 企業内の団結よりも,
 企業をこえた団結が高まるような賃金体系が望ましい。
・年齢を基準とした年齢給ではなく,
 仕事を基準とした職務給を原則とする方が,妥当性が高い。
 (同一労働同一賃金は国際的にも標準の理念である)
・年齢給は,終身雇用を前提にするなど,
 企業別労働組合との親和性が高いうえ,
 その企業別年齢別という特色は,企業別個人別という方向に向かっていて,
 先がおぼつかない。
・出版産業における職務を設定することになるが,
 あまり細かくしないことが重要(団結のために,ただし,力関係あり)。
・その職務給には,経験や技能などを基準としたランクが考えられる。
 経験や技能による差は,合理的な範囲とする。
 賃金の差は大きくしないことが重要(団結のために,ただし,力関係あり)。
・その職務給の水準は,
 最低ランクでも,一人の労働者が自立して生活できることとするが,
 ライフスタイルを反映するものではない。
・つまり,家族手当,住宅手当などライフスタイルに関係する部分は,
 社会保障を基本とする。
 そこが不十分な間は,労使で共同
 (労=手当の不十分さを容認,使=職務給以外の負担を容認)して,
 ともに社会保障の充実を政府に要求する。(政=社会保障充実へ)

 以 上。

(2009/01/26~01/29)。

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