« 京都テルサの草 | トップページ | 2008年夏,出版労連大会での発言 »

2008年6月18日 (水)

■出版労連と社会運動的な方向について

(1) アメリカの新しい労働運動

 新自由主義の政策が強力に推進されてきたアメリカでは,1990年代の半ばから,それに対抗する「新しい労働組合運動」が,社会運動の一つとして成長し展開しています。(国際労働研究センター編著『社会運動ユニオニズム-アメリカの新しい労働運動』緑風出版,2005年)

(2) 伝統的なユニオニズム

 「新しいユニオニズム,ニューボイス」に対応する運動は,伝統的なユニオニズムとよばれています。

 伝統的なユニオニズムとは……既存の組合員の労働条件,すなわち雇用保障,賃金,労働時間などの維持や改善に運動の目標を絞り込む,環境改善運動です。運動の方法は,制度化された団体交渉,ストライキ,協約締結などが中心です。一般組合員は,運動への参加に無関心で,組合費を払うかわりに,交渉結果として労働条件の向上というサービスをうけとるような,取引ビジネス的な関係になりがちで,こうした伝統的なユニオニズムは,ビジネス・ユニオニズムともよばれています。

 私たちの春闘,秋年闘は,これに当てはまるように見えます。

(3) 日本でも

 日本でも,新自由主義の政策が進められるにつれて,働く貧困層(ワーキングプア)の拡大,社会的な連帯感覚の喪失,組合組織率の低下(団結力の弱体化),労働法制の改悪が現実になっています。こうした流れに対応した労働運動構築の必要性が高まっていると思われます。

 とくに日本の労働運動では,各企業ごとに,正社員組合による交渉で決定された労働条件に,まったく規範性がないという重大な欠陥があります。同じ企業内でも雇用形態が異なれば労働条件が異なり,企業を異にすれば当然の如く,仕事が同じであっても労働条件が異なっています。

 これまでのような春闘,秋年闘を重ねても,新自由主義への対抗,労働条件の社会的規範性欠如という問題点は,解決されないでしょう。

(4) これからの組織と運動

 こういう状況の中で,私たちの出版労連も,伝統的なユニオニズムを脱し,労働組合運動を見直すことによって,運動の再構築と強化,仲間の増加をはかることが求められていると思います。

 その方向として,
 組織面では,企業別組合から,「個人加盟ユニオン」への流れであり,
 運動面では,「社会運動的」な方向について,検討の価値があると思います。

(5) 「社会運動的」な方向

 アメリカのニューボイス「社会運動ユニオニズム」の検討は,学者に任せるとしても,私たち,出版労連にとって,こういう「社会運動的」な方向は,どうなのか。これは,私たち自身の組織的な議論と検討が必要だと思います。

 出版労連の現在の運動の中にも,「社会運動的」とみなすことができそうなものは,すでに,いくつかあるように見えます。しかし,現在,それらは,そうした方向では,位置づけられていません。

(6) 「社会運動的」な労働運動のキーワード

 私見として,のキーワードと,その下に示したポイントを概観すると,基本的には社会運動ですから,どれも職場の力関係に依存しない運動と視点ばかりになります。「出版労連に加盟する組合員」が,自分の所属する企業や単組がどこであれ,自分の判断と興味と力量に応じて,社会運動的な労働運動に参加できるという方向です。

 ①社会的公正

1)低賃金で無権利な労働者の「社会的公正」の追求
 【労働相談への対応と解決】

2)最優先の課題として,恒常的,全体的な取り組みとして「仲間の拡大」 
 【仲間をふやす】

3)とくに編プロ,取次,書店などの低待遇,非正規労働者への働きかけ 
 【フラワービラなど】

4)労働者教育プログラムの作成と実施
 【ユニオンのファスト・ステップの延長】

 ②社会的連帯

1)平和運動
 【九条の会などの市民団体,各地のピースウォークなどへの参加】

2)教科書運動
 【教科書レポート。「ネット21」など市民団体,教組などとの連帯】

3)印刷労働者との連帯
 【労働条件をめぐる闘争ではなくて,公契約運動など社会運動で】

4)多様な社会運動,住民運動との連携
 【森林活動,すずらん祭,日中韓・歴史体験キャンプ】

 ③産業・職能政策

1)出版産業とその周辺の社会的な課題の提起
 【出版研究集会,出版レポート】

2)とくに環境問題への問題意識
 【紙,輸送などの出版産業の環境コストの検討】

3)労働者教育を伴った技術教育
 【出版技術講座プラスアルファ】

4)労働者教育を伴った就職情報の提供
 【就職フォーラムプラスアルファ】

5)職能向上のための情報交換と交流
 【ネッツのフェスタ。ユニオンのしごとネットの延長】

 ④新しい運動感覚

1)自由な表現活動
 【踊り,鳴り物,楽器,労働歌でない歌,独自のポスター,自由で創意的な表現】
 【短文スローガンの反復一斉絶叫型の“単細胞シュプレヒコール”でいい?】

2)自主性と自発性
 【反動員=動員しない,反集約=集約しない。数で測らない。質で測る。】

3)多様性の尊重
 【反統制。幹部だけの運動にならないために,自由な大衆的な広がりの容認】

4)言葉の問題
 【非日常語 → 動員,集約,公然化,総括】
 【身内だけに通じる専門用語 → 団交,ミック】

5)幅広い情報の共有と交流
 【空間的,時間的な制約をこえて。Web。ユニオンSNSの“なかまネット”の延長】

6)発想の斬新さ
 【ネッツの“夏祭りwith定期大会”←定期大会付きの夏祭りだよ,来てね】

*最近,関西ネッツの交流会で“夏祭りwith定期大会”を取り上げたところ,ある若い組合員から「ネッツは,もともとwith労働組合ですよね。“ネッツwith労働組合”なんだから」(ネッツとは,労働組合運動が付録に付いている,職能上の連帯組織,職能with労働組合である)と言われまして,上記の③-5)との関係で,感心しました。

■国際労働研究センターについて…memo
---------------------------------------
2007年9月末日をもって,国際労働研究センターを解散。国際労働研究センターがこれまで行ってきた活動を一橋大学フェアレイバー研究教育センター並びに,新設する組織に移行。

一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センターウェブサイト
http://www.fair-labor.soc.hit-u.ac.jp/

Labor Nowウェブサイト
http://www.jca.apc.org/labornow/
---------------------------------------
浅見 靖仁(あさみ やすひと,1960年 - )
一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻教授。
・総評会館研究助成プログラム, 「日本における社会運動ユニオニズムの可能性」(研究代表者)
 財団法人総評会館, 2007.1.1-2008.12.31
---------------------------------------

|

« 京都テルサの草 | トップページ | 2008年夏,出版労連大会での発言 »

08-Union」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ■出版労連と社会運動的な方向について:

« 京都テルサの草 | トップページ | 2008年夏,出版労連大会での発言 »